裏SNS " F " - 友か、秘密か -

教室に戻ると、
悠の前に桐島翔がふいに現れた。



「 一ノ瀬って、Fに投稿してる?」



気づけば、
翔はすぐ隣に立っていた。

その動きはあまりにも自然で、
まるで最初から
狙っていたかのようだ。



「 なんで?」

「 んー、なんとなく。最近、
一ノ瀬が書いたっぽいやつ見た気がしてさ 」



心臓が一瞬、跳ねた。
だが、表情は変えない。



「 俺じゃないよ 」

「 そっか。文体がちょっと似てたからさ 」



翔はそれ以上、
詮索しようとはしなかった。



──だが、その日を境に、
翔が悠に声をかけてくることが増えていった。



最初は、休み時間にぽつりと。

「 次の数学、範囲どこだっけ?」

「 物理の先生、今日もチョーク投げてたな 」

など一言二言言って、その場を離れていく。



昼休みに学食で定食を注文すれば、

「 学食の唐揚げって、意外とハズレないよな 」

と、なぜか隣の席に座ってくる。



帰り際には、

「 お前って、部活やってないの?」

「 駅、どっち使ってる?」

と、何気ない話を繋げてくる。



──そのすべてが、
自然に見えるように仕組まれている。



けれど、悠には分かっていた。
翔は──探っている。



( こいつ、何かに気づいてる )



桐島 翔の観察眼は、
おそらく異常なほど鋭い。



人の癖、視線の揺らぎ、
声のトーンや仕草。

そういうものを、
彼は逃さないはずだ。



空気を読み取り、
それを利用することに長けている。

そんな翔が、
自分に関心を向けている。



それだけで、教室の空気は少しずつ、
しかし確実に変わっていった。



一ノ瀬 悠は、
ただの傍観者のはずだった。



誰の視界にも入らず、
波風も立てず。

──それでも、誰かが自分を見ている。

そして、自分もまた、
誰かを見ている。



" F " の世界に
片足を踏み入れた、あの日から。

悠はもう二度と
" 外側 " には戻れなくなっていた。