大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

影は目を覚ました。

「…!」

目の前にミトの顔があり、驚いた。
ミトはスヤスヤと眠っている。

「無防備なヤツ」

影は時計を見た。思ったとおり、0時を少し過ぎた時間だった。
そろそろ退室する時間だ。

しかし、体を起こすのが妙に億劫だった。
影は横になったまま、顔をミトに近づける。
気配に全く気付く素振りもなく、ミトは呑気に眠り続けていた。

「どういう心境の変化だ?」

あれほど嫌がった後だというのに、その相手とこんなに接近して眠るミトが理解できない。
もしかしたら、快楽に目覚めたのだろうか?

(………そりゃねーな)

触れたときのミトの反応を思い出し、影はそう思い返した。

(まぁ…これが正解だ)

ミトの心境は理解できないものの、影は今日の展開に満足していた。
自分の判断は正しかったようだ。
下手に自分を出すと、ミトとの距離感を謝ると思ったから、今夜はセルファのまま接したのだ。
正体を見破られ、動揺し、ミトと取引をする羽目になってしまったのだが、少し冷静になれば、いくらでも言いくるめることができる。

それに、セルファを演じていた方が冷静でいられる。
余計なものに心乱されることもない。