大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「本当に?」

首がもげるほど頷くミト。

「そうですか。では、今日はここまでにしましょう」

影は引き下がってくれたようだ。
ホッとして緊張が緩んだところで、影と目がバッチリ合ってしまった。

「今度ポカやらかしたら、こんなもんじゃ済まさねーぞ」

最後は影の言葉で忠告される。

(もう、なんなのよこの人は!)

たまに顔を出す影に、ミトは困惑するしかない。

「では、いつもの証拠作りをしましょう」

次の瞬間にはセルファに戻ってしまうのだから。
そして、いつも通りの工程を澄ますと、影はすぐに寝てしまったのである。
優しいのか意地悪なのかさっぱりわからない。

また、セルファの態度で影が自分に接することに、ミトはどうにも慣れなかった。
最初のように、口調が荒くともポンポンと言葉を投げつけてくる方が、ずっと話しやすい。
今日のように紳士的な口調は、確かに耳障りは良いけれど、セルファでもなく影でもなく、まるで知らない相手と会話しているようで落ち着かない。

それから、セルファでいるからこそ、影の気持ちが見えてしまうことにも戸惑った。
あのときの一瞬見せた寂しそうな表情は、自分の気のせいだったのだろうか。

(なんか、調子狂うなぁ…)

ミトは眠っている影の顔をしげしげと見つめながらため息をついた。
綺麗な顔に疲労の影が落ちている。本当はとても疲れているのだろう。
しかし、セルファのままの影は「疲れた」とは一言も言わないし、態度にも表さない。
疲れを見せないように常に完璧であるように育てられてきたのかもしれない。

「なんだろう…この気持ち…」

なぜか、影に寄り添いたくなった。
ミトは影の髪をそっと撫でる。
柔らかな金髪はとても触り心地が良い。

(私には理解できないけど、この人はこの人なりに、毎日を賢明に生きているんだろうな…)

大きな義務と責任。
人格の安定しない影に、その重圧と迷いを感じるミトだった。