大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「自分の志を貫くためにも、義務は果たさないとね。
セルファに身も心も奪われた振りができないのであれば、この取引は反故しなければならない」

「そ、それで困るのはあなたよ」

綺麗過ぎる瞳の迫力に押されながらも、ミトは抵抗した。

「そうかな。あのときは動揺して判断を誤ったかもしれないけど、むしろ困るのは君ではないのか?ミト」

あくまでも優しく、セルファの顔で影はミトに問いかける。

「なんで私が?」

「意外だな。聡明な君がわからないのか?
私もお咎めなしにはならないだろうが、この国の重大な秘密を知ったミトを、ローザンが今のように自由にしてくれると思っているのかな?」

「あ…」

そう言われて、ミトは初めて自分の危うい立場に気付いた。
もし、自分が影の存在を知っているとわかれば、自分にそのつもりはなくとも誰かに話すと懸念され、厳しく監視されるようになるかもしれない。

(いや、監視だけならまだマシかも…)

場合によっては監禁もあり得る。
ミトは思わず青ざめた。

「やっと理解したようだね」

事態の重大さに気付いて呆然とするミトを見て、ようやく影は満足する。

(じゃあ、どうすればいいの?)

ミトは途方に暮れてしまった。
このまま影に従うしかないのだろうか。
ミトは自分の胸の前で手をギュッと握り俯いた。