大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「偶然にね。彼女はここ数日王宮を歩きまわっているようだね」

「ミトのこと、良くご存知なんですね」

ティアラの瞳にかすかな嫉妬が浮かぶ。

「もちろん、大切な私の妃だからね。ティアラのことも良く知っているよ」

「あら、どんな風に?」

「それは内緒」

「まぁ恐い。悪さはできませんわね」

そう言って、答えをはぐらかされたことに拗ねるティアラを、影は慈愛に満ちた目で見つめた。
面倒なことになりそうなときは、語らず視線と行動で黙らせる。
ティアラは拗ねた自分も愛しいと言わんばかりの影を見て、少し機嫌を直した。

「セルファはミトのことをどう思っていらっしゃいます?」

ティアラは直球で聞いてみることにした。
ミトは自分やアメリアとは毛並みが違う。それについて、セルファはどう感じているのだろう?
しかし、この手の質問に対する答えはマニュアルで決まっている。

「もちろん、大切な人です。あなたと同じ様に」

分け隔てはしない。
愛情は均等。

「そういう決まりきった答えはつまらないですわ」

しかし、ティアラは納得するはずもない。

「事実だから仕方がない」

影は肩をすくめた。

「では質問を具体化させますわ。側室としてではなく、人として、ミトのことをどう感じていらっしゃるの?」

影は少し考えた。
この答えは慎重に選ばなければならないようだ。
ティアラが満足する答えとはどんなものだろうか。
ティアラは黙って答えを待っている。