大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「今は福祉、とくに医療を充実させるために動いているんです。
医学は専門的に学んでいないので、少しでも知識を増やそうと、実は今必死なんだ」

セルファから渡された本は医学書だけではなかったが、影はそう答えた。
会話が長引くと自室に戻る時間も遅くなる。できるだけ早く切り上げるための工夫だった。

ティアラは側室として最初に迎えられた姫だ。
ローザンに来てすぐに、本当に自分が公務に関わることが一切ないと知り、酷く疎外感を抱いたようだった。
それを慰めるのはもちろん影の役目。
プライドの高いティアラは露骨に側室の立場を慰められるより、こうして政治の情報を流し、決して政治から切り離されているわけではないと思わせたほうが効果的だ。

「まぁ、医学書!?私なんて頁を捲っただけで眩暈がしてきそうですわ」

ティアラの国は、女性は結婚すると家に入るのが慣わしだ。
そのため、王族でも女性の場合勉学を重要視されていない。
ティアラは王女として一通りの一般知識を学んだだけで、勉強は嫌いだった。

「私もです。医師を心から尊敬してしまいます」

影がそう言うと、ティアラはふふっと上機嫌に笑った。

「ところで、図書館でミトに会ったそうですね?」

(やっぱり聞かれたか)

ティアラはさり気無さを装ったが、その質問をされることを影は確信していた。