大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「この日を待ち望んでいましたわ」

ティアラは笑顔でセルファを演じている影を出迎えた。
今夜はティアラの日だ。

「私もです。ティアラ」

影は熱い眼差しでティアラを見つめた。

「さあ、こちらにいらして。今日もセルファお気に入りのお茶を用意してありますの」

ティアラは影の腕をそっと掴み、ソファへ誘導した。

「ありがとう」

「お疲れでしょう?先日母国からたくさんの乾燥ハーブが届いたんです。疲労回復にとっても効果のあるものを、早速ブレンドしてみましたわ。
いつもと少し味が違うけど、朝の目覚めがとても良くなるので、是非お飲みになって」

そう言って、ティアラはティーカップを差し出した。
影は一口飲む。

「……うん。美味しい。ティアラが入れてくれるお茶は、いつもホッとする味だね」

「毎日セルファが多忙なのは存じておりますわ。
私には何もできませんが、ここがセルファにとってホッとできる場所であるようにと、いつも思っておりますのよ」

「私など忙しいとは言わない。多忙な者はほかにたくさんいる。私はその者たちに支えられてなんとか日々をこなしているだけです」

セルファは謙虚でなければならない。

「そんなことありませんわ!セルファの仕事量については、私だって少しは知っています。
昨日は図書館で膨大な調べ物をされていたんですよね?
私は王宮に来て間もない頃、一度見学に行っただけですが、難しい本ばかりでしたわ。きっと大変な仕事をされているのでしょう?」

ティアラは毎回セルファの仕事について聞いてくる。
妃としての公務は全てユフィーリオが行っているため、政治に関わることがほぼないことに、ティアラは焦りを感じているのだろう。
せめて情報だけでも乗り遅れまいというのが、ヒシヒシと伝わってくる。
だから、影は毎回質問には丁寧に答えている。
そうすることで、ティアラが少し安心するからだ。