大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

本格的に影武者としての役目を果たし始めてから11年、誰1人として、影の正体を見破ったものはいない。
影の存在を知らされている者はごく僅かで、入れ替わるときは必ず告知されるが、もし何も言わなければ誰も気付かないのではないか。
それほどまでに自分を模倣する影だが、今はもう怖いとは思わない。

代わりに、セルファは影を疎ましく思っていた。
その気持ちは、ユフィーリオが自分と初めて出会ったときの話を聞いて、益々大きくなった。

本当は、できることなら影と顔合わせなどしたくない。
顔を見るだけでも不愉快になるからだ。
しかし、それは自分の勝手な感情である。
疎ましく気に食わない相手でも、自分の義務を怠るわけにはいかない。

誰か別の者が代行してくれればどれだけ気持ちが楽になるだろう。
しかし、自分と全く同じ遺伝子を持つ影は、代わりの効かない存在なのだから仕方ない。
ローザンの後継者である自分の身を守る努力は義務である。
今は戦争中ではないので回数は少ないながら、危険な場所へは身代わりとして影が出向くこともある。
この先、影が自分の代わりに命を落すかもしれない。

影は自分の盾の一つなのだ。
自分は影を利用しているだけで、絶対的強者は自分だ。
自分の指示に従うしかない弱々しい影に、平常心を乱されるのはくだらない。
そう考えることで、セルファは影への嫌悪感を少しでも紛らわせようとしていた。

(だけど、もし自分の身に何かあったら?そのときは、何食わぬ顔で影は自分と入れ替わるのだろうか)

そのような事態が起こったら、ユフィーリオにも気付かれず、影は彼女と夜を過ごすのだろうか。
考えてはいけないとわかっていても、考えずにはおれなかった。
次第にセルファは影を憎むようになっていく。
自分でも気付かないうちに。