大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「聞いてはいたが、あまりに奥手で驚いたよ。頬にキスをしたら真っ赤になっていた」

「………」

影は気付かれないように小さくため息をついた。

(あいつ、自分の状況理解できてねーな…)

夜の様子も事細かに情報を共有しなければならない2人だが、ミトの場合は真実を語るわけにはいかない。
そのため、影はミトについては奥手というキャラ付けをして伝えている。
実際に行われていない夜の営みを創作して伝えるのは苦痛だが仕方ない。自分の仕事なのだから。

とはいえ、ユフィーリオ以外と交わる気がないセルファに、なぜこんな作り話をしなければならないのかと虚しくなる影だった。
生まれた時からセルファの影として生きてきたが、今回ほど馬鹿馬鹿しいと思ったことはない。

「ミトはお伝えしているとおりの人物です。人前で触れるのは避けた方が良いのではとないかと思います」

ミトは今後も王宮をうろつくだろう。
確率は低いが、セルファとミトが今回のようにまたバッタリ会うかもしれない。
そのときに、ミトがポカをやらないように、なるべく距離を置かせた方が無難だ。
影はそう考えた。

「君が私に意見するとは、珍しいこともあるものだね」

セルファは影を正面から見据えた。
どうやら今の発言に気分を害したようだ。

「行動を決めるのは私だ。君はそれに合わせるのが義務ではないのか?」

「……申し訳ありません。出過ぎた発言でした」

影は深く頭を下げた。
そうだ。自分に意見などあってはならない。
自分はセルファの影。
セルファの言動思考に全て従うのが自分の存在意義なのだ。
充分承知していたはずなのに、自分の正体をミトに見破られ、ずっと封印していた自我を外に出してしまい、普段の調子を狂わせた。