大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「さすがに少し緊張するわね」

ミトは苦笑しながら応えた。
苦さがあったとしても、笑うことで少しでも自分の心をほぐしたかった。

「ミト様でも緊張することあるんですね」

マリアが驚く。

「ちょっと、『ミト様でも』ってどーゆーこと?」

ジロっと睨みつつも、茶化された方が気楽なミト。

「あっ、申し訳ありません」

マリアに茶化した気持ちは全くないのだが。
マリアは侍女になって、まだ1年に満たない。
年も17歳と若く、童顔で、茶色のショートボブの髪型が一層幼く見せていた。
至らない点も多いが、素直で頑張り屋なところがミトは好きだった。

「私たちが一緒ですから、大丈夫ですよ」

エイナがミトを励ました。

「ありがとう。エイナ」

馬車の外にはダケルも控えている。
道中危険がないように、騎士団長の仕事を調整して護衛を申し出てくれたのだ。
道中街で一泊し、次の日の昼前にローザン王国へ着いた。
王宮は高い塀に囲まれ、正門は見上げるほどに大きい。

「お待ちしておりました。ミト様」

その大きな正門の前で、ミトの到着を待ち構えている者がいた。
馬車の窓越しに丁寧にお辞儀をされる。

「私は、ローザン王国第一王位継承者の世話役、セイラム=ナカユキと申します。王宮までご案内致します」

「ありがとうございます」

ミトは一応王国の姫らしく、しとやかにお礼を言い微笑んだ。
まったくもってキャラじゃないが、自分はラミリア王国の名を背負ってこの国に嫁ぐのだから仕方がない。

「お疲れでしょうが、今しばらく御辛抱ください」

そう言って、セイラムは窓の視界から見えなくなってしまった。
馬車が動き出す。
とてもとても大きな城なのだろう。
10分程揺られて、やっと馬車を降りることができた。