大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「でも、今まで特に何も言われてないわよ。
アリア様はいつも通り無口だし、ティアラは見学に来てクッキーを貰ってくれたくらいだし。ユフィーリオ様にはほとんど会ってもいないけど、彼女は私のことなんて眼中にないでしょうし」

「ユフィーリオが他の妃を相手にしてないってことはわかるのか」

影は少しだけ感心した。

「そりゃ、知られていないだけでセルファを独占しているわけだし、待遇だって誰が見ても別格でしょ?同等と思われてないことくらい、私でもわかるわ」

「なるほどね。でも、他の二人には少し気をつけた方がいいと思うぜ」

「ご忠告ありがと」

影はアリアとティアラと夜を共にしている。きっと何か知っているのだろう。
そう思ったミトだが、深く聞く気にはなれなかった。
人づてに話を聞くくらいなら、自分から相手を知るために近づきたいと思う。

「そうだ、クッキー食べる?」

ミトは話を変えることにする。

「なんだよ。唐突に。しかもこんな夜分にクッキーか?」

「ほら、一応今日はセルファのためにってことで厨房借りて作ったから、あなたに貰ってもらわないと、つじつまが合わないのよ」

「じゃあ、食べるか」

ミトの言葉を聞いて、影はベッドから下りソファに座った。

「割と素直」

ちょっと意外に思うミト。

「いらねーよ」とか言われるかと思っていたのだ。

「優しいセルファ様は、妃からの好意を決して無下にしないんだよ」

そう言って、影はクッキーに手を伸ばした。

「オレ、甘いものは苦手なんだけど、仕方ねぇな」

「あ、じゃあこっちだけ食べれば?」

ミトは3種類あるうちの1つを指差した。
影は言われるままに、そのクッキーを一口かじる。

「おっ」

そして思わず声を出だした。

「なんだこれ。甘くねぇ」

ボリボリと食べる。

「香辛料が入ってるの。大人向け」

「へぇ」

「これならいけそう?」

「あ?ああ、なかなかだな」

「良かった」

にっこりとミトは笑った。
影は他のクッキーにも手を伸ばす。