大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

トントン。

ドアがノックされた。
時刻は22時を過ぎたところ。
準備万端状態のミトは、なぜか少しだけ緊張してドアを開ける。
そこには、セルファそっくりな影がいた。

「4日振りになってしまったね」

王子様モードの影は、優しく微笑む。

「お久しぶり。どうぞ」

ミトは影を招きいれ、ドアを閉めた。

「あ~あ。疲れた」

パタンとドアが完全に閉まったとたんに、影は地を出す。ぐっと伸びをした後、ベッドに倒れ込んだ。
わかっちゃいるけど、なんとも混乱する光景だ。
どうしてこんなにも瞬間的に人格を変えられるんだろう。

「時間がくるまで、ゆっくりして」

そう言ってミトはソファに座り、読みかけの本を手に取った。ラミリアから持ってきたものだ。

「随分楽しんでるみたいじゃねーか」

ベッドに横たわったまま、影が話しかけてきた。

「楽しんでるって?」

「この別邸で妃達が何をしているか、情報がちゃ~んと入ってくるんだぜ。使用人と仲良くなってどうするつもりだ?」

楽しそうに聞く影。面白がっているようだ。

「どうするつもりって、楽しいじゃない。いろんな話が聞けて」

「物好きだなー。恋の相手を使用人から探すってか?」

「あっ、そっか」

「あん?」

「いや、なんでもない」

(恋心を知りたいのが、今回の取引の理由だったっけ)

すっかり忘れていたミトである。
影はミトの呟きの意味がわからなかったが、特に気にもしなかった。