大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

このような状態のため、ラミリアにいた頃は楽しい時間だった食事も、今や「栄養補給のための仕事」となっている。
それでも皆が食堂に集まるのは、体裁を取り繕う努力の放棄だけはしない程度に良識を保っているからだろう。
一国の姫として育った彼女たちは、性格や気質に差があったとしても、自分の感情より形式を優先させるマナーが染み付いているのだ。

そして、この3日間セルファには一度も会わなかった。
忙しいのは理解できるが、このまま4日に1度夜だけの夫婦関係がずっと続くのだろうか。
いやいや、夜は影の役割だから、セルファ本人には会っていないことになる。
セルファに恋焦がれているわけではないが、自分の夫であるはずのセルファと顔を合わせる機会が皆無で、ミトは人妻になった実感が一向に沸かなかった。

「でも、ま、いっか」

今日も今日とて、別邸の探検なのである。
要は、夜然るべき時間に準備をして部屋で待っていれば良いのだ。
しかも、影と取引したので夫婦生活をしている振りだけして、後は時間が経つのを待っていれば良いだけなのだから、気楽なものである。

「さて、今日はなにをしようかな」

この膨大な暇をどう費やすか、ミトは毎日ワクワクしていた。
明日あたりから、探索場所を王宮にしてみようか。お付きの人をつければ出入りは自由だと聞いている。
ここで働く人たちから聞いた、ローザンにある様々な素敵な場所にも絶対行ってみたい。許可が必要で少々面倒だが、それでも必ず実現しよう。
ミトにはやりたいことがたくさんあって、毎日が充実していた。