大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「さて、とりあえず……、どうしよう」

部屋から出て早速ミトは困った。
とにかく、広いのである。

「あれ?エイナがついてこないわ」

ミトは出てきたドアを振り返った。

「………、まっいっか」

くるり、と進行方向へ向き直り、スタスタと歩き出した。
ガチャ!

「あ、出てきちゃった」

仕方なく歩みを止めるミト。

「ミト様!!!」

眉を吊り上げエイナが迫ってきた。

「今、私を置いていこうとしてましたよね?」

「ま、まっさかぁ」

誤魔化すミト。

「どもってますよ。とにかく、ここはラミリアではないんですから、節度を保って行動してください」

「わかったわよ。でも、一歩遅れてきたエイナだって悪いんだからね」

「あ、そういうことおしゃいますか」

「だって、事実だもん。私、せっかちなの」

「そんな心無いことおっしゃるなら、これは差し上げません」

そう言って、エイナはわざとらしく手に持っていた書類を後ろに隠した。

「え?なになに?」

興味津々のミト。

「別邸の地図です」

「うそ!そんな便利なものがあるの?」

「はい。これさえあれば、迷うことなく、この広い建物内を自由に動き回れますよ」

「ちょうだい♡」

ミトは両手を差し出した。

「ダメです」

ツンと、エイナは顔を背けた。

「えーーー!どうして?」

不満を訴えるミト。

「地図を渡してたらミト様が建物内を完全に把握してしまいます。逃げ足のレベルアップされても困りますから」

「そんなレベルアップしないわよ」

ミトはぷっと頬を膨らませる。

「いえいえ、日頃の行いが悪過ぎて、前科もありまくりですから、信用できません」

自分の主にここまで言えるのも、ミトの性格と、そしてお互いの信頼度の高さ故なのだが、お陰で喧嘩も多い二人である。

「ひっどーい!」

「ささ、参りましょう。どうぞ自由に歩いてくださいませ。私は背後で目を光らせることにしますから」

エイナはにっこりと余裕の笑顔を見せた。

「ふーんだ。地図なんかなくったって、自分で探索するからいいもん」

エイナにベーっと舌を出すと、ミトは背を向け歩き出した。