大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

とは言え、自ら初恋探し宣言をしておきながら、ミトはこれからどうしたら良いのか全くわからなかった。
そもそも、恋愛感情が良くわからない。
ラミリアにいたとき、素敵な男性がいなかったのかと言えばそういうわけではない。
強くて逞しい兵士や、博識で穏やかな研究者、他にも魅力的な男性はたくさんいた。
しかし、個人的に仲が深まることはなく、自分が特別な感情を抱くこともなかった。

『誰があんたと恋に落ちて手を出す?』

影に言われた言葉を思い出すミト。
影の発言はムカツクほどに常識的で、そして適格だ。

「だから、片思いでもいいんだもん!」

イラっとしてミトは大きな独り言を口にし、そして、誰かに聞かれたんじゃないかと慌てて周囲を見回した。
幸い今は部屋に1人。エイナもマリアも別の部屋にいる。

(片思いでもいい、経験してみたい!胸が苦しくなるよう恋を。だけど…)

「わかんないな…」

そもそも、片思いだけならラミリアにいたときにできたはずだが、特定の男性に対して、強い興味を持ったことは今まで一度もない。
周囲からの恋バナを「いいないいな」と聞いていただけである。

「とりあえず、今日は探索でもしようかな」

部屋で一人考えても答えは出ないと察して、ミトは今日の計画を思案し始めた。
朝食をとり身支度をすると、ミトはエイナとマリアに宣言する。

「ちょっと散歩してくるわね」

「ご一緒させていただきます!」

さりげなく一人で出て行こうと思っていたのに、エイナに即捕まった。

「大丈夫よ。離れの敷地内から出ないから」

ニコニコと作り笑顔で言ってみるが、エイナには全く通用しない。