大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

ミトが朝目覚めると、既に影の姿はなかった。
テーブルに「良く寝ていたので、起こさずに戻ることにしました」と、きれいな文字でメモが残されていた。
きっと、これも影の仕事なのだろう。

昨夜の出来事をもう一度思い出すミト。
セルファそのもの、でも別人。
なぜ自分にそれがわかってしまったんだろう。
影が言う通り、特殊能力の類なんだろうか。
だとしたら、自分にそんな能力があったことを恨みたいと思った。
何も知らなければ、影をセルファだと信じて疑わず、ただ受け入れて穏やかに過ごせたはずなのに。

諦めて、ローザンで静かに一生を過ごす覚悟を固めて来た。
それなのに、想定外の事態になってしまった。
結局、自分は一国の姫という立場から逃げたかっただけなのかもしれない。
過酷であっても、自由な人生を歩んでみたかった。
その気持ちが、昨日の取引を自分にさせたのかもしれない。

複雑な心境のまま、しばらくミトは呆然としていた。
しかし、事態は変わったのだと気分を切り替える。
影が取引に応じたのは、実はかなり意外だったが、せっかく得た10ヶ月の有効期間。悔いを残さないよう、気持ちを偽らずに、自分と向かい合おう。
ミトは、そう心に決めた。