大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「私があなたをセルファと別人だと訴えたところで、あなたが言うとおり、適当にもみ消されて終わるでしょうね。
だけど、ローザンのやり方を認めた上で、あなたが影である役割を自ら放棄したとを国王に訴えたらどうなるかしら?」

影は無言だ。
良し良しとミトは思う。
慎重に言葉を選んで続けた。

「国にはそれぞれ様々な事情があることは私にも理解できるわ。
感情的に受け入れられなくても、あなたの存在がこの国に必要ならば、それを認めるのが、ローザンに嫁いだ私がすべきことだとも思う。
でも、先に役割を放棄したのはあなたでしょう?」

これは挑発だ。

「なんだと?」

さっきまでのどこか投げやりで、それでいて余裕だった影が、明らかに不愉快さを見せている。しかも、ミトが何を主張するのか警戒している。
自分は確かに大きなミスを犯したかもしれない。そんな考えが影の頭を過ぎった。

「あなたの役割は、セルファそのものになることで、疑う私を丸め込むことだったはずだわ。
あっさり影武者だと認めて、咎められないはずがないわよね。場合によっては、厳しい罰を受けるかも。どう考えても、あなたの立場は王族とは別だもの」

「オレを脅迫するつもりか?」

影の瞳に怒りの感情が表れる。
どうやら挑発は成功したようだ。

「そうじゃないわ」

ミトは緊張を隠し、形勢逆転の余裕の表情を作る。

「取引しましょう」

「取引?」

より一層警戒の色を強める影。
ティアラもアメリアも大国に囲われ、整えられ満たされた環境へ素直に馴染んでいる。2人ともごく一般的な育ちが良く考えの浅い姫だった。
しかし、どうやらラミリアの姫は、見た目によらず頭が切れるようだ。
どんなとんでもない提案を持ちかけてくるのか。影は構えた。

「あなたが自分の存在を明かしたことは、ナイショにしてあげる」

「へぇ…」

「その代わり、私に自由をちょうだい」

「自由?」

「感情の自由」

ミトが何を言いたいのか理解し難く、影は怪訝に思った。