大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

口内を蹂躙され、初めての感覚と息苦しさに、ミトは抵抗を諦めてしまいそうな自分を叱咤した。

ガブッ!!

「!」

思いっきり影の舌を噛んだつもりだったが、そう強い力は出なかったようだ。
それでも影は驚いて顔を離した。

「触らないで」

半泣きのミトは、キッと影を見据える。

「あなたはセルファじゃない。
私はあなたじゃく、セルファと結婚したのよ。
ローザンの事情なんて知らない。とにかく、あなたは私に触らないで!」

精一杯虚勢を張った。
自分でも支離滅裂な主張だとわかっている。それでも、このまま大人しく応じる気分には到底なれなかった。
影から逃げようと試みたが、両腕を押さえつけられ、ベッドに体を固定されてしまう。
必死で抵抗しようとするミトを、影はつまらなそうに見た。

「ふ~ん…。品行方正で紳士的な王子様の方がいいってわけか?」

影は目を閉じ、そして開いた。

「ミト」

さっきまでの声音から一転、穏やかで優しげなセルファそのものになる。

「今日は舞踏会で疲れているでしょう。だけど、私は今あなたが欲しいんです。優しくしますから、安心して全てを私に委ねてください」

表情や仕草、雰囲気まですべてが変わる。慈愛に満ちた、包み込むような穏やかさだった。
目の前にいるのはセルファではない。それを影自ら認めたというのに、セルファそのものに豹変する影にミトは混乱した。

(もー!なんなのこいつは!)

「どうか、逃げないでください…」

そして、再び影との距離が縮まる。

「だから、そういう意味じゃなーい!」

寸前で大声を上げるミト。

「なんだよ。めんどくせーな」

たちまちセルファの雰囲気は失せ、乱暴な口調の影に戻る。
ミトは頭がおかしくなりそうだった。