大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「私はずっと影武者として生きてきました。それ以外の生き方がわかりませんでした。ただ、淡々とひたすらに役割をこなしているだけでした。自分の意志など、無意味なものだと思っていました」

「そうだ。おまえの意志などどうでも良い。大事なのはローザンを守ること、それだけだ」

「それは承知の上で、反論させていただきます」

「なんだと」

シルフィの目が怒りに燃えていた。

「父上、兄には守りたい大切な存在があります。私が外に出たら、ユフィーリオ様はどうなるのでしょうか。
兄がしたことは、そんなに罪深いことなのでしょうか?それならば、兄をそこまで惑わせ追い詰めるような方法をとった父上の責任は、どう問われるおつもりか」

「セルファのしたことは、一国の王となるべき自覚を見失った愚行だ」

シルフィはセルディオの言葉を一蹴した。
しかし、セルディオは一歩も引かない。

「兄だって一人の人間です。間違えることもあるでしょう。
それに、ローザンを危機に陥れるようなことをしたわけじゃない。ただ、私を憎んだだけではありませんか。
影武者という私の存在が、ユフィーリオ様を混乱させ、お二人の間にすれ違いを生んでしまった。悪いのは全て私です」

「それでも、いつ如何なるときも冷静であらねばならないのが、国を背負うものの務めだ」

シルフィは切り捨てた。

「どうしてもお考えを変えていただくことはできませんか?」

「くどい。私は同じことを繰り返すのは愚か者の行為だと思っている。おまえが何を言っても、考えを変える気はない」

「では、私は自分の役目を放棄させていただきます」

「なに!?」

「全ての公務を拒否させていただきます。どんな罰でも受けましょう。さすれば、セルファ様が表に出る以外道はなくなります」

「そんなことが許されるはずなかろう」

シルフィは怒りで震えそうになる声を必死で抑えた。
今までただの一度も命令に背いたことのないセルディオが、ここまで抵抗するのは想定外だった。