大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

シルフィはセルファの部屋へ急いでいた。
剣技の稽古でセルディオが負傷したと連絡が入ったのだ。
すぐに怪我の治療を受け、今は自室にいるという。
外せない公務を終え、やっと駆けつけることができた。

「全く、このタイミングで何をやっているのだ」

シルフィの口からつい愚痴がこぼれる。
ようやくセルファの部屋へ辿り着き部屋に入ると、セルディオはベッドに横たわっていた。
傍らにはセイラムがいる。
世話をしていた侍女が慌てて頭を下げた。

「これは、父上」

セルディオは慌てて上体を起こした。
頭から左耳にかけて、包帯を巻かれている。

「一体、どういうことだ」

シルフィはセルディオの痛々しい姿に動揺した。

「申し訳ありません。剣の稽古をしていたのですが、手元が狂い怪我をしてしまいました」

「どうしてそんな場所を」

シルフィの質問に、セルディオは淡々と答える。

「偶然とは恐ろしいものですね。セイラムに相手をお願いしていたのですが、私が跳ね上げた彼の剣が、運悪く私のほうに向かって飛んできたのです。避けきれず左耳を負傷してしまいました」

「左耳…だと…?」

それはセルファが傷ついた場所だ。

「君はもういい。部屋の外で待機していなさい」

シルフィは侍女にそう言った。
この先は、事情を知らない者に聞かせてはならない会話となるだろう。

「はい。かしこまりました」

侍女は頭を下げたまま、速やかに退室した。
それを見届けてから、シルフィはセルディオを睨みつける。
セルディオは正面から視線を受け止めた。