大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

セルファはこのやり取りをどんな思いで聞いているのだろうか。
影は目の前で自分たちをローザンという盾で正当化しようとする両親のやり取りを見て、怒りを感じた。
確かに、当時はセルファと自分、そしてローザンを考えて最良の選択だと思ったのかもしれない。
実際自分もそのために影武者として全力を尽くしてきた。

しかし、今回の出来事で自分とセルファの立場をひっくり返そうとするのは、あまりにも都合が良すぎるではないか。
結局ローザンの体裁を守るために、理由をつけてセルファを裏に隠そうと言うのか。今更自分を表に引っ張り出そうと言うのか。
そんなに軽いものなのか、自分とセルファの21年の年月は。

「お言葉ですが、国王様」

影はついに口を開いた。

「私は影武者としてセルファ様を演じることはできますが、ローザンを継ぐ能力はありません。そのような教育は受けておりません。
全ては、セルファ様そのものになるためだけに、この21年間を費やしてきました。ただそれだけです。私がこの国の王権を持つなど、到底無理でございます」

しかし、影の言葉は即却下される。

「そんなことはない。君はこのような場でも自分を保つ精神力の強い男だ。常に冷静で、状況判断も的確だ。セルファを完璧に模倣できるならば、それだけで帝王学を習得しているのと同等」

そしてシルフィはセルファに視線を向けた。
セルファは顔を床につけるようにうずくっていた。

「君はここ数日のセルファを知らないだろう。取り乱し、王族の品格も忘れてしまった。勝手な行動をした自分の責任だという自覚もないようだ」

辛辣に言うシルファ。

「それに、切り落とされた耳は元には戻らない。人前に多く出る国王になるには、美しさも必要だ。ローザンは宝石の国なのだから」

「そんなことはございません」

影は食い下がった。
こんなくだらない大人に言い負かされてたまるかと思った。