大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「私への侮辱は、この国を冒涜することと同等。もはや、許す余地などない!」

セルファは護身用のナイフを取り出した。

「セルファ様!!」

セイラムが制止の声をかける。
構わずセルファは影に突っ込んだ。

「やってらんねぇ…」

小さく呟いた影の声は、セルファにだけ届いた。
セルファは大きく一歩踏み込み、鋭くナイフを影の心臓目掛けて突き刺した。
影は右に避ける。
その動きを追うように、セルファはナイフの軌道を変えた。
寸での所で影は体を捻り、ナイフを避ける。

「セルファ様、お止めください!」

なんとか二人を止めたいセイラムだが、影もセルファも物心つく前から武道を叩き込まれている。

全く同レベル、しかも達人級の二人の間に、どちらも怪我をさせないタイミングで入るのは困難だった。
助けの手を呼ぼうにも、影の存在を知られてはならないため、呼ぶに呼べない。

(頭に血が上ったこいつを、まずは静かにさせねーとな)

影はセルファの攻撃を避けることに専念しながら、機会をうかがっていた。
セルファが低い位置から蹴りを入れてくる。
影はそれを飛び跳ねてかわした。
その隙を突いて、セルファはナイフを影の首を狙って切りつける。
影は左手で払った。

「くっ…」

その動きに怯んだ隙を逃さず、影は着地すると即座にセルファのナイフを蹴り上げた。
セルファから離れたナイフは天井に向かって跳ねる。

「貴様ーーー!!!!!」

怒りに我を忘れたセルファが影に飛び掛り、首を絞めた。

「セルファ様!」

セイラムが二人を引き剥がすために駆け寄ろうとしたとき、セルファが悲鳴を上げた。

「うわぁぁぁっ!!」

蹴り上げられたナイフがセルファの頭上から降ってきて、セルファの左耳を半分切り落としてしまったのだった。