大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

しばらくして、影武者はセイラムに連れられてやってきた。

「連れて参りました」

セルファは無言で頷いた。
セイラムは二人から少し離れた位置に留まった。
影武者がセルファの前に立つ。

気に食わない。
存在そのものが。

「何か御用でしょうか?」

自分と同じ顔、しかし全くの無表情な影。
視界に入るだけでも不愉快だ。
だからといって、目を逸らしては、まるで敗北したように感じる。
セルファは影の目を正面から見据えて言った。

「用と言うほどではない。むしろ、無用と言った方がいいだろう」

影はセルファの言葉の意味を図りかねた。

「明日から、側室の相手も僕がしよう。要件はそれだけだ。下がりたまえ」

セルファは短く切り捨てるように言った。

「セルファ様!?」

驚愕の声を上げたのはセイラムだった。
影はピクリとも表情を動かさない。
影のその態度に、セルファは神経を逆撫でされた。

(まぁ、それでもいい。さっさと消えてしまえ)

影に感情を掻き乱されるのは不本意だ。
セルファは必死に理性で自分を抑えていた。

「承知致しかねます」

しかし、影の返事はセルファの望むものではなかった。

「何と言った…?」

怒りで声が震えるセルファ。

「承知致しかねます、と申し上げました」

相変わらずの無表情でそう答える影。

「何をおかしなことを。君は私の影武者。私の命令に背く権利はない」

セルファは笑い飛ばした。