大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

驚いた顔でセルファがユフィーリオを見ている。

「どうして?セルファは今…」

(公務のはず。こんな場所にいるはずがないわ。ということはもしかして…)

セルファは踵を返して走り出した。

「待って!」

ユフィーリオは慌てて追いかける。

「待って!あなたは影武者なの!?」

走りながら問いかけた。
その応えは返ってこない。

「もしかして、あのとき私が出会ったのはあなたの方だったの!?」

構わずユフィーリオは叫んだ。
影との差はあっという間に広がり、そしてすぐに見失ってしまった。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

息を乱してユフィーリオは座り込んだ。
こんなに全速力で走ったのなは、子どものとき以来ではないだろうか。
激しい動悸は走ったからだけではない。

「うそ…、うそよね…?」

信じがたいことだが、でもきっとそうだと確信した。
あのとき自分が出会って一目でユフィーリオの心を奪った相手は、セルファではなかった。
セルファの影武者だったのだ。

セルファが覚えていないのも当然だ。
彼は12歳のユフィーリオには出会っていなかったのだから。

(でも、そんなこと関係ない。あれから私のことを好きになってくれて、大事にしてくれて、私が心から愛しいと思ったのはセルファよ)

必死でそう思おうとしたのに、すぐに疑念が生まれる。

(本当に?私と一緒にいたのは本当にセルファだった?)

ユフィーリオは影がイザリアに行ったときに見送りをしたときのことを思い出す。
言葉を交わしたのはほんのわずかだが、事実を知っていても疑いたくなるほど、影はセルファそのものだった。

(もし、私が知らない内に何度も入れ替わっていたとしたら?そんなの、わかるはずないわ…)

じゃあ、今まで自分が一緒に過ごして愛を確かめ合ってきたのは一体だれなのか?
本当にセルファ?
それとも、影…?
ユフィーリオはわからなくなった。