大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

実は、目的が全くないわけではない。
あの日、父親に連れてこられた場所はわかっている。
今日来賓を向かえた部屋からすぐの、特別応接室だ。
あのとき、ユフィーリオはその部屋に来る前に迷ってしまった。
だから、王宮の入り口からその部屋までの道のりを歩けば、何か思い出すかもしれないと思ったのだ。

ゆっくり歩きながら周囲を見渡す。
当時の自分を思い出しながら。

(何かヒントはないかしら。とにかく、こんなに人がたくさんいなかったはず。迷ったと気付いた時には、周りに人影も見えなかったわ)

そもそも、どうして自分は父親とはぐれてしまったのか。

(そうだわ、窓から見える花壇があまりにも素晴らしくて、もっと近くで見たくてちょっと移動した隙に、お父様とはぐれてしまったんだったわ)

あの花壇はどこから見た景色だったろう。

(もしかしたら…)

思いついた場所があった。
ユフィーリオは足早にその場所へ向かった。
もちろんミリナはそれに従う。

「ここだわ…」

自分の記憶は正しかった。
王宮の入り口から特別応接室へ向かう回廊、その両側に植えられた花々。

(思い出したわ)

あの時、自分は花壇を間近に見るために外に出たのだ。
父親は出迎えた執事と何か立ち話を始めて、ほんの少しだけ見て戻れば大丈夫だろうと思ったのだ。
ユフィーリオは当時の自分の足取りをしっかりと思い出した。
そう、確かに自分はここから庭に出た。

(でも、どうして迷ってしまったのかしら?)

回廊に戻れば後はほとんど一本道。
父親とはぐれても、迷ったりはしないはずだ。
ユフィーリオは庭を見渡した。

「あ…」

そして、思わず声を上げる。
庭を挟んで回廊の反対側に、良く似た作りの壁があった。
ローザンの城は、こうやってところどころ中庭のような場所がある。
緑を愛するローザンのお国柄もあるが、もし侵入者がいた場合、惑わせる目的もあるのだろう。

(もしかしたら、私間違ってあっちに行ってしまったのかしら?)

きっとそうだ。
向こうにある、そっくりの扉から入ったに違いない。
ユフィーリオは吸い寄せられるようにその扉に向かった。