「それが、そうでもないぞ」
楽しそうにギドは笑う。
「もったいつけないで、早く教えてよ」
ミトはついに敬語を止めた。
「ミト様」
ミトの教育係でもあり、侍女でもあるフィーナがたしなめる。
「フィーナ、気にするな。今日は口うるさいダケルもいない。ざっくばらんに行こう」
ダケルとは騎士団長である。いかにも騎士団長然たる堅苦しい男だ。今日は別件があり、席を外していた。
「知りたいか?嫁ぎ先と相手」
「あたりまえでしょ。一応自分が生涯住む場所で、添い遂げる伴侶なんだから」
「興味ない、とか言うと思ったぞ」
「なんで残念そーなのよ」
「父は悲しい。ついに末っ子のミトまでもが、他の男のものになるだなんて…」
ギドは芝居ではなく、心底悲しそうな顔をしている。
「しょーがないじゃない。王国の血筋に生まれちゃったんだから。政略結婚は義務でしょ」
「ミト様、表現が露骨過ぎます」
慌てて制する侍女頭のフィーナ。
フィーナはミトの幼少期から仕えていて、性格も行動もすべて把握している。
「だって、事実だし」
ミトはそ知らぬ顔である。
「そう。事実だ。しかし、父は娘の事をきちんと考えているそ。ミトには幸せになってほしい。親として当然の願いだ」
「それ、さっきも聞いた」
冷たく言うミト。
溺愛している末っ子に冷たくあしらわれて、今度は拗ねた顔になるギダ。
笑いを必死に堪えて顔が引きつっているキエス。
困り果てるフィーナ。
ちなみに、ギダの隣には、世話役で側近のディオガがずっと無表情に佇んでいる。
ギダはたっぷりと間をとって、散々もったいつけてから、ついに発表した。
「ミトの相手は、ローザン王国のセルファ王子だ」



