大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

影はミトの部屋から出た。
そこにはセイラムとエイナが待ち構えていた。

「セルファ様、申し訳ございませんでした」

エイナがいきなり跪いて頭を床にこすりつける様に下げた。

「ミト様が大変なご無礼を致しました。本当に申し訳ございません。どうか、どうかお許しください」

「エイナ、このことは他言無用と言ったはず。なかったことと同じです。いつもと変わらない態度でいてもらわねば困ります」

影はそう言うと、エイナの肩を叩いて横を通り過ぎた。

「どうか頭を上げて、セルファ様のおっしゃるように、何事もなかったよう振舞ってください」

セイラムはエイナに声をかけ、一礼して影のあとを追った。
それでもエイナは2人が部屋を出るまで深く頭を下げ続けた。

「何があったのですか?」

無言のまま早足で歩く影の横につき、小声で聞くセイラム。

「言ったはずだ。悪ふざけが過ぎただけ。奥手のミトには刺激が強すぎたのだろう」

影は無表情のままそう答えた。
これ以上詮索するなという意志を込めて。

「一体何を?あそこまで怯えるようなこととは?」

セイラムは食い下がった。
自分にすがるミトの姿が頭から離れない。

「答える必要はない。ミトは部屋を飛び出していないことになっているのだから」

影は取り合う気がない。

「セルファ様にもお伝えしないと?」

「伝えてどうする?エイナには口止めをした。あとは君が黙っていれば良いだけだ。あの後ミトも機嫌を直した。何も問題はない。いつも通りだ」

早口で言い捨てる影。

「本当に、ミト様は大丈夫なのですね?」

その言い方が影の癇に障った。

「セイラムは側室に興味があるのか?随分としつこいじゃないか」

どうしてミトはこの男を好きになったのか。

「いえ」

今度はすぐに引き下がるセイラム。

「ならば、もう何も言わないでくれ」

影は今日ついて何も語りたくなかった。