大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

認めざるを得ない。
自分にとって、ミトは特別な存在になっていた。
自分の存在を知り、自分の人格を認めてくれる唯一の存在。

(だが、それは危険だ)

ミトと出会ったことで、少しずつ自分の中で何かが狂い始めている。
これ以上、ミトに本当の自分を見せてはいけない。
完全なセルファとして、あり続けなければならない。

ミトが何を言おうが、どう動こうが、あの取引を反故して、セルファのまま今夜ミトを抱く。
そして、今後ずっと、自分の人格を封印する。
影はそう決意して今夜ここに来た。

しかし、その決意もミトの顔を見た瞬間大きく揺らいだ。
結局、無言でソファに横になることしかできなかった。

これではいけない。
そう思い、目を閉じて気持ちを落ち着かせる影。

自分はセルファだ。
セルファは大事な側室を放ってソファに横たわったりしない。
博愛的に、いついかなる時も、平等に側室を愛するのがセルファだ。
自分を奮い起こそうと努力するも、影はその場から動けずにいた。

もう一度ミトを見る。
ミトは本当に誰かに恋愛感情を抱いたのだろうか?
ミトがそこまで親密になるような男がローザンにいるだろうか?
今ローザンで最もミトと一緒の時間を過ごしている男は自分のはずだ。
それなのに、なぜ。

影は知らない男に嫉妬を抱いたが、そんな自分にすぐに気付く。

(何を考えているんだ!そんなことはどうでも良いはずだ。オレは、いや、私は自分の務めを果たすのみ)

影は再び目を閉じた。
そして、次に目を開いたときには完全にセルファになっていた。
影はソファから立ち上がってミトに近づいた。