大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

しかし、ミトがどんなに足掻いたって、その時間は必ず来る。

トントン。

今夜もいつも通りドアをノックされた。
自分を奮い起こして、笑顔で影を迎える。
しかし、見えない位置にいるはずのセイラムを思うと、表情はどうしても強張った。

「ミト、会いたかったです」

今日も完璧なセルファとなって、影はミトに微笑んだ。

「どうぞ…」

一方、ミトはそう言うのが精一杯だった。
部屋に入り、ドアを閉めると、影はソファに何も言わず横たわった。
そのまま無言で目を閉じる。

近寄るな、と拒否されているように感じたミトは、無言でお茶を入れると、静かに影の前に置き、自分はベッドに移動した。
横になる気にはなれず、座って書物を取り出す。

前回、自分は影の気持ちを大きく害する何かをしたのだろう。
我慢して行為を受け入れようとがんばったのに、影は一体何が気に食わないのだろうか。
でも、そんなことはどうでも良かった。
今ミトが気になるのは、影ではなくセイラムだ。

同じ空間にいる人間にここまで拒絶されるのは、さすがのミトも辛かったが、陽気に話をする気分でもなく、むしろ無言でいてくれる影にホッとするミト。
扉の向こうにセイラムがいることを意識してしまった今、影からノルマと言われる行為を受けるのは辛すぎた。

(このまま、今夜は何もありませんように)

そんなミトを、影は盗み見た。
どこか上の空で字を追っているように思う。
自分の雰囲気を察して近づかず声もかけないミト。
そういう所が好ましい。

(何を考えているんだオレは)

影はその考えを振り払うようにギュッと目を閉じた。
この4日間、淡々とやるべきことをこなしつつ、頭の片隅にはいつもミトがいた。