大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

そしてミトも眠れぬ夜を過ごしていた。
ミトにはとても珍しいことである。
睡眠はミトの特技で、いつもならばどんなに悩んでも時間がくればいつの間にか眠っていた。
しかし、今夜は頭の中に浮かぶ男性の顔が睡魔を遠ざける。

(セイラム様…)

彼の顔を見るといつだって心が穏やかになった。

(でも、それはお兄様に似てるからだわ)

ミトはそう自分を説得しようとしていた。
不思議なことに、あれだけ憧れた恋愛感情を今自分が抱いているかもしれないというのに、ミトは否定ばかりしていた。
否定すればするほど、セイラムの姿はミトの心の中に鮮やかに再現される。
自分をいきなり拒絶し、心を閉ざしてしまった影に気が回らない程に。

ミトはふと、ローザンにいた頃に庭師のリアナという女性に聞いた話を思い出した。
リアナが結婚すると聞き、ミトがお祝いの言葉をかけに行ったときに質問した答えだった。

「いつから彼のことを好きなの?」

ミトがそう聞くと、リアナは「わからない」と答えた。

「わからないけど、でも、いつのまにか、彼の顔ばかり思い浮かべている自分に気付いたんです。最初は、なんて嫌な奴ー!なんて思っていて、嫌いで嫌いで仕方なかったんですけど、段々彼を知っていく内に、ムカツクとか、でも、案外良い所あるかもとか、やっぱり嫌いとか、でも、あんなことを私に言うのは彼だけとか…」

彼の話をするとき、リアナの表情は豊かに変わる。