大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

(なんか、疲れた…)

影の言う通りなのかもしれない。
今日しなくても、いつかするのだ。
抵抗しても、意味がないのかもしれない。

(なんだか、どうでもいいや…)

ミトの全身から力が抜けていく。

(ついに諦めた…か?)

ならば、この隙を逃す手はない。
影は体を重ねた。
ミトは抵抗してこない。
ただ、目を閉じて顔を背けている。

影はミトの手首から手を離した。
いきなり押し返してくるかもしれないと警戒しつつ。
しかし、それでもミトは動かない。

らしくない、と思いながらも、影は続けた。
諦めの感情でも、行為を受け入れてくれるならそれでいい。
体から始まる愛情だってあるはずだ。
影は優しくミトに触れた。

ミトは自分に言い聞かせてた。
これが本来の役割。王族に生まれたら政略結婚は義務。あたりまえのこと。

(ちょっと予想外のことがあって悪あがきしたくなっただけ。それも、今日でおしまい)

自分を納得させて、影を受け入れようと思った。
だから、手を離されても逃げようとしなかった。

(別に何かが変わるわけじゃない。夜、自分の仕事をするだけ。それだけだよ…)

影の手が自分の足を這う。
ミトはギュッと目を瞑った。

『好きな男がいるのに、別の男に抱かれるの、耐えられんのか?』

そのとき影に言われた言葉が蘇り、そして同時にセイラムの顔が再び思い浮かんだ。
穏やかなセイラムの瞳。
一定の距離を保たれているはずなのに、会うといつもホッとした。
思い返せば、初めて出会ったときからセイラムを見るとミトの心は安らいだ。