大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「ち、違うわ」

ミトは慌てて否定する。

「違うって、何が?」

「好きとかじゃない…と、思う」

明らかにうろたえているミト。
影は猛烈にイライラした。なぜ自分がこんなにも苛立っているのか影にもわからない。

「ま、いっか。誰だか知らねーが、そいつを好きになる前に、やることやっちまおうぜ」

チュッとキスをする。

「だから、なんでそうなるのよ!」

ミトは両手を使って影の顔を引き剥がした。

「それがオレの仕事だから」

平然と言ってのける影。

「今更?」

「そう、今更」

影はミトの細い手首を掴み、ベッドに押さえつけた。

「本気なの!?」

それには答えず、影はミトの首筋に唇を押し付けた。

「ちょっと!」

構わず吸い付く。

「んっ」

チュッチュと音をたてて吸い上げてから、ミトの柔らかい耳たぶを甘く噛んだ。

「あ…、もうやめてよ!」

ミトはまだ諦めない。

「諦めろよ」

影はミトの耳元でそう囁く。

「イヤ!」

「別に好きな男を探すのを止めろなんて言っていない。体だけ通じればいいんだ。一度で馴染ませてやる。今夜だけ、我慢しろ」

影としては、最大限優しい言葉を選んだつもりだった。
身勝手でいい加減なミトだが、憎む気にはなれない。
ミトはミトなりに、自分と向き合って足掻いているのがわかるからだ。
そんなミトに好感を持っている自分がいる。
本当なら、影だって取引を継続してやりたいと思う。

しかし、影が感じたセルファの違和感。今までにないあの感じ。
もし自分の直感が当たっているのだとしたら、セルファがミトを欲する日も、そう遠くないだろう。

(そんなことは耐えられない)

ミトを自分が手に入れる前に、セルファに差し出すことなどどうしてできようか。
今まで全てローザンのために従ってきた。
だけど、今回だけは嫌だ。
ミトを手に入れるのは、自分だ。

影は気付いていない。
その感情が、限りなく恋愛感情に近いものだということを。