大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

今夜はミトの部屋にセルファが来る日だ。
ユフィーリオは先日王宮に戻った。ということは、影は無事復帰したのだろう。
そう思いながら、もしかしたらセルファ本人が来るのではないかと、ミトは緊張しながら夜を待った。

もし、セルファが来たらアウトである。
ミトが未経験だとバレて、その経緯を追及され、影とミトは断罪されてしまうかもしれない。
さすがのミトも、影の顔を見るまで不安でたまらなかった。
早めに準備を済ませて、一人部屋で影を待つミト。

トントン。

いつもの時間、いつものようにドアがノックされる。
ミトは恐る恐るドアを開けた。
そこに立っていたのは…。

「会いたかったですよ。ミト」

「私もです。この前はありがとうございました」

笑顔で見つめあう二人。

「どうぞ、お入りください」

ミトは影を部屋に招きいれた。

(良かった!本当に良かった…!)

ミトは心底ホッとする。

「もう!心配したんだからね!」

ドアを閉め、ミトは影を睨んだ。

「自分の処遇を、だろ」

憎たらしい顔で影は言った。
いつもと全く変わらない影を見て、ミトは嬉しくなった。

「なんか久しぶり!すっかり元気そうで良かった」

ミトの笑顔に、影はなぜか動揺した。

「能天気なヤツだな。自分の置かれている立場、理解してんのかよ」

動揺を悟られないように、軽口を叩く影。

「わかってるわよ。すっごく焦ったもん。今夜セルファが来たら、もうおしまいって思ってた」

「よく乗り切ったじゃねーか」

「必死だったわよ。あんな思いもうこりごり。
あ、お茶飲むでしょ?今準備するね」

ミトはティーポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。

「おまえさ、本当に自分の立場、わかってんのか?」

影はソファに座った。

「え?立場って?」

ミトは振り向く。

「こりごりとか言ってるけど、おまえはセルファの側室だろ?セルファと夜過ごすのは義務だろ」

「だからそれは…」

ミトは言いよどんだ。
影の指摘は正しい。
正しいけど、素直に受け入れたくないので、とりあえずお茶を影の前に差し出す。