大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「ふがっ!」

思い切りセルファの体を振り払った。
いやっ!と言いたかったが、ふが、になってしまった。
でも、それは好都合だったかもしれない。
セルファは唐突なミトの動作に意標をつかれた。
だからこそ、ミトはセルファを振り払えたのだ。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

ミトは酸素を胸に吸い込んだ。
乱れた息を整えるのに苦労する。

「ミト?」

いぶかしげにミトを見るセルファ。
やばい!と思った。

「あ、ごめんなさい…、息ができなくて。今日のセルファは、その、ちょっと強引ですね」

慌てて笑顔を作り、まだ整わない呼吸を誤魔化しながら、ミトは取りつくろう。
セルファはミトに振り解かれたことで、激しく自尊心を傷つけられていた。
とはいえ、ミトの言う通り強引すぎたかもしれない。

「あの…、怒りました?」

おずおずとミトが聞いてくる。

「いや、まさか」

セルファは穏やかな笑顔を作った。
そして、優しくミトの髪を撫でた。
優しい王子様、それが自分だ。

「さて、特別な場所に招待する約束だったね」

セルファは話題を変えることにする。

「え?ここじゃないんですか?」

「確かに、夜の展望台もなかなか来られない特別な場所だとは思うけど、ここじゃないよ」

「じゃあ、どこですか?」

「私の部屋」

「………」

固まってしまうミト。

「あれ?ご不満かな?」

またもや期待とは違うミトの反応に、セルファはムキになる。
今夜、絶対ミトを自分の部屋に連れて行く。

「いえ、まぁ、あの、不満と言うか、セルファの部屋は確かに特別だけど、所詮お部屋と言うか…」

思わず本音を言ってしまうミトである。

「まあ、そう言わずに来てほしいな。ミトのために色々と用意したんだよ」

「そうですか、ありがとうございます」

本当は行きたくないが、断るわけにはいかない。
ミトは仕方なくお礼を言った。

「そろそろ行こう」

セルファは少し機嫌を直してくれたようだ。
笑顔でミトの手をひく。
ミトは無言でうなずくしかなかった。