大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

その後準備を整え、約束の時間ぴったりに別邸の出口に着いた。
手持ちの中で最も動きやすいドレスに着替え、髪はアップにまとめた。
夜に別邸から出るのはもちろん初めてで、ミトはとてもワクワクしている。
出口には、すでにセイラムが待っていた。

「すみません、お待たせしました」

影が戻るまでは王宮で毎日顔を合わせていたので、ミトは久しぶりにセイラムと会ったような錯覚を覚える。

(やっぱりセイラム様って、どこか懐かしさを感じるな…)

ちょっぴり嬉しい気持ちになった。

「とんでもございません。では、参りましょう。足元が暗くなっておりますので、どうかお気をつけください」

夜だからだろうか、セイラムがいつもよりずっと大人に見えて、ミトは少しドギマギしてしまった。

「あ、はい…。よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げる。
エイナもそれに倣い、深々と頭を下げた。

「こちらです」

セイラムは包み込むような笑顔でミトを誘導した。
案内されたのは展望台への階段がある入り口だった。
そこにセルファが待っていた。

「よく来てくれましたね、ミト」

ミトを見つけ、セルファは歩み寄った。

「いえ、こちらこそ、招待していただきありがとうございます」

定型文のあいさつをするミト。

「さあ、行きましょう」

当たり前のようにセルファに手を握られる。

「えっと、あ、はい…」

(え?二人だけで?)

少し不安になって、思わず振り向いてしセイラムを見てしまった。
その後ろにはエイナもいる。

「私たちはここで待機しております。どうか、ゆっくりとお過ごしくださいませ」

先に今日の段取りについて聞いていたのだろう、エイナがそう言った。
目の奥に『はしゃぎ過ぎないでくださいね!!!』というメッセージが込められているような気がしたミト。