大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「こっちに来てくれないの?」

ユフィーリオは小さな声で尋ねた。

「すぐに行くよ」

何とかそう言い、セルファは水場で手を洗った。

「セルファ…」

催促の声を出すユフィーリオ。
背中に視線を感じる。
ユフィーリオはセルファが部屋を出たときのままの姿だ。

(もう一度ということか…)

この時間から、またユフィーリオが泣き止み満足するまで奉仕しなければならないのか。
セルファは思わず頭を振った。

一方、ユフィーリオは部屋に戻ってきたセルファの様子を見て、また涙が止まらなくなってしまった。

(どうして、そんな顔で私を見るの?)

疲れ切った、うんざりとした表情のセルファ。

(私を愛しているならば、いつだって笑顔で抱き締めてくれるんじゃないの?私の気持ちを喜んで受け止めてくれるんじゃないの?)

頭の中は疑問だらけだ。
名前を呼んでもこちらに来てくれない。
冷めた目で一瞥され、その後は目も合わせてくれなくなった。
重々しい沈黙に部屋は満たされる。

「私…、いない方がいい?」

否定してほしくてユフィーリオはそう聞いた。

(そんなことないってすぐに言って)

しかし、その思いは裏切られる。

「ユフィも少し一人でゆっくり休んだ方がいいと思う」

「え…」

ユフィーリオはギュッと心臓を掴まれるようなショックを感じた。

「毎晩僕の帰りを待って寝不足だろう?少しきちんと眠ったほうがいい。心配だよ」

(そんなのウソ)

そう思っても、また辛い言葉を聞くのが恐くて口に出せなかった。
心臓が痛いくらいに動悸が激しくなる。

(どうすればいいの?どうしたら、少し前のセルファに戻ってくれるの?
もしかして、離れた方がいいの?そうしたら、私がどんなに大切かわかってくれる?)

「…そうね…、セルファの言う通りだわ…」

混乱した思考で、ユフィーリオはうつむきながら言葉を吐き出した。