大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

ミトの部屋を退室する時間がきてしまった。
セルファは自室に戻らなければならない。
気分は憂鬱だ。
自分の部屋にはユフィーリオがいる。

出て行く前に、あまりに泣くのでミトの部屋へ行く時間を遅らせたが、それでもユフィーリオの表情は晴れなかった。
もしかしたら、まだ泣いているのかもしれない。
そう思うと、帰りたくないとすら思ってしまう。
こんなにもユフィーリオの精神力が脆いとは思っていなかった。

今までのユフィーリオはいつも笑顔で、自分を気遣い、そして愛してくれていた。
自分も心から愛しいと、何よりも大事だと思っていた。
側室と夜を過ごすことになってもそれは変わらないはずだった。

しかし、ユフィーリオは変わってしまった。
ここ数日のユフィーリオはいつも沈鬱な表情で、常に自分の行動を監視管理したがり、そしてすぐに涙を見せる。

どうして信じてくれないのだろう。
側室達とは夜数時間過ごすだけだ。
それ以外の時間はほぼユフィーリオに捧げていると言うのに。

セルファは疲れていた。
毎晩側室とユフィーリオの相手をしなければならないことに。

(今日は一人で眠りたい…)

心底そう思った。
しかし、ついに自室の前に辿り着いてしまう。
セルファは重い気持ちでドアを開けた。
ベッドの上でユフィーリオが膝を抱えてうずくまっている。

「ただいま」

優しく声をかけると顔を上げるユフィーリオ。その目は涙で濡れていた。
セルファは努力してため息を飲み込む。

(いい加減にしてくれ…)

その言葉と共に。
以前ならば、泣きながら自分を待つユフィーリオをいじらしいと思えたのに。
駆け寄って、優しい言葉をかけて、抱き締めることができたのに。
今の自分は、そうすべきだとわかっていても、ユフィーリオに寄り添えない。