大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

ローザンを出国して今日で9日目。
影は帰路の船上にいた。
役目は円滑に果たした。
イザリアとの交渉も問題なく執り行われた。
明日、やっとローザンに着く。

(あいつ、自由を謳歌してるんだろうな)

影はふっと笑った。
甲板から海を見渡す。
船にはローザンの関係者しか乗っていないので、護衛なしで自由に出歩ける

限られた船内だけとはいえ、1人で自由に行動するのは影にとっては新鮮だった。
海という存在も、開放感に拍車をかけた。
なんだかとても気分が良かった。
なぜこんなにも自分は上機嫌なのか、影は不思議だった。
帰国すれば、またがんじがらめの生活が始まるというのに。

(いっそ、海に飛び込んで泳いで逃げるか…)

なんて考えが一瞬頭を過ぎったりもしたが、すぐに思い直した。
やるべきことを果たす、それが自分の存在意義。
仮に自由を獲得できたとしても、今更何をしたら良いのかもわからない。
ローザンに、セルファという存在に縛られて生きるのが自分にはお似合いだ。

思考は悲観的なのに、この爽快感はなんだろうか。
鼻歌でも歌いだしそうな気分で、影は海と空を眺めた。

しかし次の日、影は船内の部屋であまりの寝苦しさに目を覚す。
頭がグルグルと回るような眩暈。
計らなくても高熱だとわかるほど体が熱い。

(なんだこれは…)

40度くらいの熱ならば普通に振舞えるように訓練されている。
しかし、体を起こすのがやっとだった。
起こしたと同時に吐き気に襲われる。
ぐっと堪えて、なんとかベッドから下り、部屋を出た。

「セルファ様、どうされましたか!?」

船内を歩いていた兵士がセルファを見つけ駆け寄ってくる。
そこで、影の意識は途絶えた。