大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

…。

ん?

「…ト…」

なに?

「ミト」

「え!?」

自分を呼ばれていることに気付き、ミトはガバっと体を起こした。

「ひえっ!」

目の前に影がいて、ビックリして仰け反るミト。
前にもこんなことがあったような気がする。

「え?今何時?」

「もうすぐ0時だ」

影は疲れた顔をしていた。

「何?今来たの?部屋は?エイナに開けてもらった?」

影は頷いた。

「随分遅かったじゃない」

そう言いながらミトは伸びをする。

(う~ん、眠い)

「ここに来る前に、ティアラとアリアの部屋に寄ってたんだよ。
明日出国だから挨拶だけのはずだったんだが、引き止めがあんまりしつけーから、どっちもやってやった。どいつもこいつも色惚けしやがって、マジ疲れる」

ムスッとした表情で影は吐き捨るように愚痴った。

「疲れてるなら、私は良かったのに…」

半分寝惚けた頭のミト。

「そうもいかねーんだよ。仕事だからな」

不機嫌を隠さない影。

「ふ~ん、そういうものなの?それはそうと、久しぶりね、セルファじゃないのって」

そう言ってミトは笑顔になった。やっぱりこっちの方が話しやすい。
笑顔のミトと目がバッチリ合い、影はサッと目を逸らした。

「疲れた。寝る。2時に起こしてくれ」

そしてベッドに横になると目を閉じてしまった。
ミトが文句を言う前に、寝息が聞こえてきた。

「2時って、それまで私に起きてろってこと?」

ミトはため息をついた。
影は完全に熟睡しているようだ。よほど疲れているのだろう。セルファを演じる気力もない程に。
無防備な影の寝顔を見て、ミトは可愛いと思ってしまった。

(もしかして、明日出国するのって、こっちの方だったりして)

ありえない話ではない。
だとしたら、せめて今の時間だけでも休んでほしい。
ミトはそっとベッドから離れた。