大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

明日はセルファが出国する日だ。
そして、今夜は影がミトの部屋に訪れる日でもある。

(長旅の前日だし、今夜の訪問はなしでしょ)

ミトは気楽に考えていたが、予想は外れてしまった。

「ミト様、今夜もセルファ様はいらっしゃるそうです。お忙しいでしょうに、愛情深い方ですね。
ですから、入浴は8時です。忘れてフラフラと出歩かないでくださいませ」

と、エイナに言われてしまったのだ。

(えー!?)

心の中で不満の声を上げるミト。

「なんでガッカリした顔をなさるんですか?」

エイナにジト目で見らてしまい、ミトは慌てて弁解した。

「いや、ガッカリなんてしてないわよ。嬉しいわ!」

「また何か企んでらっしゃるとか?」

簡単には誤魔化されないエイナ。さすがである。

「そんなことないわよ。今日は夜に備えてゆっくりすることにするわ」

下手な弁解は逆効果と悟り、ミトは部屋に引っ込むことにした。

「いけない、いけない」

エイナにはこの国に来て良かったと、セルファには大事にされていると伝えている。
だから、セルファが来るなら喜ばなければならない。
頭ではわかっていたのに、今夜は自由だと思い込んでいたので、つい露骨にガッカリしてしまった。

付き合いの長いエイナは、とりあえず「セルファとローザンを気に入っている」というミトの意見には納得しているものの、素直過ぎる様子に違和感も持っているようだ。
下手な発言、鋭いエイナに何か突っ込まれたら、ミトは言い逃れできないだろう。
イレギュラーに弱いミトなのであった。

(思えば、夜は影なんだから、明日セルファが出国しようが、体力的には全く関係ないのよね)

ミトは仕方なく夜まで自室で過ごし、定刻通り入浴を済ませ、いつもより少し豪華な部屋着に着替えて、くつろぎながら影を待った。
時刻は夜9時。そろそろ影が来る時刻だ。
しかし、10時を過ぎても影は来ない。

「どうしたのかな?やっぱり忙しくて来られなくなったとか?表でセルファが何かしていれば、あいつはこっちに来れないものね」

もしそうなら、その内連絡が来るだろう。

(どうせ来るのは影だし、寝ててもいいわよね)

と言うわけで、ミトはベッドに横になり、数分で眠りについた。