大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

「ミト、おまえの縁談が決まったぞ」

やっぱり…。

ラミリア王国の姫、ミト=ラミリアは、ニコニコと満面の笑みで報告する父であり、この国の王でもあるギダ=ラミリアの顔を見て、思わずため息をつきそうになった。

ミトは19歳。
緩いウェーブのかかった腰まである柔らかなロングヘアは、グレイに近い深い濃紺色をしている。紙の色はラミリアの血筋独特のものだ。
姫と呼ぶにはいささかシンプル過ぎるブルーのドレスを着ている。動きやすさ最優先で選んだ結果だ。

ミトの1つ上の姉、ユマは、昨年隣国に嫁いだ。
3つ上の兄、ガイは、2年前に親交の深いフィールズ王国の姫と結婚している。
今年は自分の番かもしれないと、簡単に予測がついた。
だから、驚きはしなかった。

問題は嫁ぎ先だ。

(どうか、面倒な国事が多い所じゃありませんよーに!)

ミトはこっそりと神に祈りを捧げた。

「心配するな。父は娘の幸せを願っている。ミトの性格は良くわかっているつもりだぞ」

「はぁ…、そーですか」

場所は王居室、そう堅苦しくはない国風ではあるものの、一応公な王命として呼ばれているので、ミトは敬語で答えた。

「その顔は父を信じておらぬな」

「そーゆーわけじゃないけど、自由な姫時代もついに終わりかと思ったら、流石に気持ちが萎えちゃいましたわ。お父様」

ギドの隣に控えている宰相のキエスは、「一応公の場だし」と、やる気のなさそうなミトに思わず噴き出しそうになるのを必死に堪えていた。
ラミリア王族の末っ子のミトは、自由奔放で屈託のない性格をしている。
とは言え、そう厳しくはない階級制度のこの国で相手が実の父とはいえ、一国の主にここまで投げやりな口を聞けるというのは、なかなかに稀有な存在だ。