ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

 須垣は自分のスマホで株価急騰に対するSNSの反応を眺めている。

《オコンネルがおこってるw》

《巨人対ミジンコ》

《カリスマの敗北》

《スガキ退場?》

「二十億が吹っ飛んだな」と、吹っ切れたように笑う。

「残念でした」と、レイナが翠の後ろに回って肩に手を置く。「子猫ちゃんの大勝利」

「含み益が消えただけで、マイナスってわけじゃない。また稼げばいいさ。株なんて、俺にとってはただの数字が上下するゲームだからな」

 それに比べたら、と須垣は自分の車に歩み寄ってドアを開けた。

「人妻との火遊びはプライスレスだろ。二十億くらい、安いもんさ。あんたにはそれだけの価値がある」

 車に乗り込む前に、須垣は翠に手を振った。

「負け惜しみだけどな」

 去っていくコンパクトカーを見送りながら、レイナがため息をつく。

「楽しい冒険だったけど、オコンネルの記者会見にアテンドできなくて、私、クビに(ファイア)されちゃうかも」

「蒼也さんがいますから、大丈夫ですよ」

「そうなのよね。あいつ、なぜか年寄りには好かれるのよ」

 ――幸之助さんに厳しくしつけられたおかげかも。

 レイナが翠の肩を抱いて頬を寄せる。

「それにしても、ミドリは頑張ったわね。予定と違う方向に進み始めた時は焦ったわよ」

 欧米風の距離感に戸惑いながらも翠は笑みを返した。

「お二人が助けに来てくれるって信じてましたから」

「あなたは蒼也のワイフにふさわしいわね。あなたには蒼也の夢を支える力がある。これからも蒼也を信じて幸せにしてあげて」

「はい!」

「本当はね」と、レイナがささやく。「私、蒼也のこと、狙ってたのよ」

「えっ」

「悔しいけど、全然脈なし。私って、《へのへのもへじ》に見える?」

「そんなことないですよ」

「失礼しちゃうわよね、あいつ」と、翠の背中をたたいたレイナが照りつける太陽に向かって両手を突き上げた。「あーあ、私にも素敵な出会いないかな」

 悠輝が車の中に置いてあるスマホに手を伸ばす。

「蒼ちゃんに無事だって連絡しなくちゃ」

「あ、悠輝さん」と、翠は呼び止めた。「ちょっと待ってください」

「ん、どうしたの?」

 翠はレイナに目配せをしながら岸壁に歩み寄った。