ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

「須垣さんはなぜそんなに女性を嫌うんですか」

「女性が嫌いなんじゃない。あんたたちが嫌いなんだ」

「私は幸せそうな他人が憎いっていう気持ちが分からないんです」

「株の世界では、儲けたやつの足元には損した連中の屍が横たわっている」

「でも、日常の世界では他人が幸せだと自分が不幸になるってわけでもありませんよね。みんなが幸せになったって問題ないじゃないですか」

「そんなのはきれいごとだろ」と、須垣はシートに背を預け、腕組みをした。「あんただって、御更木の資産に惹かれているだけかもしれないぞ」

「それはありませんよ」

「なんでだよ」

「だって、私が蒼也さんと出会ったのは子どもの頃で、その時は、相手の背景なんて分かっていませんでしたから。私はただ蒼也さんだけを見ていたんです」

「かなわねえなあ」と、須垣が手を頭の後ろに回した。「ますます憎たらしくなってきたよ、あんた」

 だが、その表情には諦めのような奇妙な安らぎが宿っていた。

「そろそろか……」と、時計に目をやった須垣がぎこちない笑みを浮かべながらつぶやく。

「何が……ですか?」

 それには答えず、須垣は車をゆっくりと移動させ、倉庫の日陰に止めると車を降りた。

「少し歩こう」

 数歩後ろをついて歩くと、潮風がまとわりついてあっという間に髪がベタつく。

 岸壁に歩み寄った須垣は、船の係留ロープを止めるボラードに片足を乗せた。

「昭和の映画みたいですね」

「だろ」と、須垣が振り向く。「どんな男でも、これに足を乗せればスターになれる。不思議なアイテムなんだ」

 二十年前の蒼也を想起させる少年のような笑顔だった。

 須垣は上体を前後させてボラードに置いた脚を曲げ伸ばしした。

「いつもこの時間はトレーニングをしてるんでね」

 鍛え抜かれた肉体が青い背景に映える。

 波の照り返しがまぶしくて翠は目を細めた。

「写真撮りましょうか?」

「いや、いいよ」と、車に目をやってから須垣は首を振った。「連絡されると困るからな」

「じゃあ、須垣さんのスマホで」

「あんたも不思議な人だな」と、須垣が足を下ろす。「俺はあんたに危害を加えようとしてるんだぜ」

「須垣さんだって、不思議な人ですよ」

「だから、よせって、そういうのは」と、須垣が鼻の頭をかく。「本気になりたくないんだ」

 真夏の日差しが濃い影を作り、二人の間の重たい空気を押し流すように潮風が吹き抜けていく。

「せっかくだから」と、須垣が自分のスマホを取り出す。「二人で写真を撮らないか?」

「はあ?」

「ずいぶんと、厚かましいお願いだけどな」

 風で乱れた髪を整えながら翠が須垣に歩み寄る。