ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

 スマホでミサラギメディカルを検索すると、真っ赤な株価が表示された。

 関連表示で荒れたSNSも流れてくる。

 ――どうしたらいいの?

 蒼也に連絡を取ってみようとしたが、そもそも、須垣の言っていることが本当なのかも分からない。

 助けてやるというのは、株を買い支えるということなのか、それに、個人でそんなことができるのか、翠にはまったく見当もつかなかった。

「センセー、どうしたの?」と、ヒロキくんとルナちゃんが脚に飛びついてくる。

「あ、ううん、なんでもないよ」

 慌ててスマホを片づけると、ヒロキくんが首をかしげる。

「トム・ソーヤとはなしてたの?」

「ち、違うよ」

「トム・ソーヤってなあに?」と、今度はルナちゃんが首をかしげる。

「こうえんのおじさん!」

 あらら、やっぱりおじさんかぁ。

 蒼也さん、あの時、本気で不機嫌だったな。

「センセー、おうたのじかんでしょ」

 子どもはすぐに興味が移る。

 今は、そういう切り替えがありがたい。

「そうだね、お教室に行こうか」

「オレね、こえでっかい!」

「元気いっぱい歌ってね」

 子どもたちに手を引っ張られているうちに、翠は先生の顔に戻っていた。

 午後の仕事に追われている間は、不穏な電話の内容は風のように吹き去っていた。

 夕方、家に戻ってきたときだった。

 クリーニングが返ってきていた。

 蒼也が朝のうちに出しておいたものだろう。

 翠はそれを部屋に持ち込んで、クローゼットにしまうためにビニール袋から取り出した。

 ふと見ると、ポケットの内容物が小袋に入れてハンガーに引っかけてあった。

 ――これって……。

 どうして?

 いくら疎いといっても、さすがにそういうものだとは分かる。

 薄く四角いコンドームのパッケージだ。

 持ってないって言ってたのに……。

 どうしてそれがスーツのポケットに?

 昼間須垣に見せられた写真が頭をよぎる。

 まさか、レイナさんと!?

 そういう関係じゃないって言ってたけど、やっぱり嘘だったの?

 ――旦那だって楽しんでるんだ。

 沼に引きずり込む魔物の手のように、須垣の声がわいてくる。

 疑いたくはない。

 だけど、何が本当なのか分からない。

 それに、本当のことを知ったからといって、それが解決なのかすらも分からない。

 何も知らない方が良かったの?

 ウブで無知な翠でいれば良かったの?

 関係のない部外者で居続けろというの?

 ここから先は入ってこなくていい。

 オマエニハカンケイガナイ。

 思考が渦を巻き、胸が押しつぶされる。

 ――信じたいのに。

 支えたいのに。

 気がつけば荒い呼吸を繰り返し、目眩に襲われていた。

 思わずしゃがみ込んで息を整える。

 静かな部屋に一人。

 心臓の音が反響し、潰れそうな心をさらに追い立てる。

 ぎゅっと目をつむっているのに涙が滲み出してくる。

 こんなところにいてはいけない。

 翠は鞄をつかんでマンションを飛び出していた。