ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に


   ◇

 男の腕の中で冷静さを取り戻した翠は時計に目をやった。

「たいへん、もうこんな時間」

「先にシャワー浴びてきなよ」

 ――はあ?

「まだするんですか?」

「違うよ」と、蒼也が吹き出す。「朝ご飯用意しておくから、その間にシャワーを浴びろってこと。仕事行くのにそのままじゃ、さすがにまずいだろ」

「そ、そうですね。お願いします」

 勘違いでますます汗が噴き出し、翠は慌ててバスルームに駆け込んだ。

 熱いシャワーで気怠い体が一気に目覚める。

 自分の体のあちこちに、蒼也がつけた印がくっきりとついている。

 全部見られちゃったんだよね。

 私も見ちゃったけど。

 なんか、かわいかったな。

 ケダモノみたいな蒼也さん。

 食べられちゃった、私。

 ……って、何言ってるんだろ。

 急がなくちゃ。

 時間がないんだから。

 頭を仕事モードに切り替え、バスルームから出て髪を乾かし支度を済ませると、キッチンには朝食ができあがっていた。

「もうできたんですか?」

「ベーコンエッグを挟んだホットサンド。包んでおいたから、車の中で食べなよ」

「はい、ありがとうございます」

 それをもらって鞄を取りに行こうとすると、蒼也に腕をつかまれた。

「顔が赤いよ」

「なんでもないです」

「何を想像してた?」

「してません!」

 急いでいるのに、腕を放してくれない。

「そろそろ『です、ます』とか、敬語はやめようよ」

「そうですか」

「ほら、また、『です』って言ってるぞ」

「急に変えるのは難しいですよ」

「そんなことないだろ」と、澄んだ緑色の瞳がのぞき込んでくる。「ちゃんと、『何があってもやめないで!』って叫んでたじゃないか」

 ――ちょっ。

 そ、そんなことまでおぼえてるんですか!

「ほら、言ってみなよ」

「やめてください。恥ずかしいです」

「また敬語に戻っちゃったよ」

「ち、遅刻しちゃいますから。その話はまた」

 翠は冷蔵庫からオレンジジュースのパックを掴み取ると、玄関に向かってばたばたと駆けだした。