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淡い光が差し込む朝のキッチンで、蒼也が翠の腰に腕を回し、首筋にキスを落とす。
「翠、食べてもいい?」
吐息が火照った肌をくすぐり、胸が熱くなる。
「蒼也さん、朝からそんな……」
――ベッドから出たばかりなのに。
身をよじり逃げようとする翠を、蒼也ががっちりとした腕で引き寄せる。
「俺の心を乱れさせるのは誰だよ」
男の指が荒く髪を梳き、瞳がまっすぐに捕らえられる。
「蒼也さん、こんなの……愛されすぎです」
うずく体に途切れることのないキスが襲いかかり、翠の鼓動を狂わせる。
「逃がさないよ」
胸から舌を這わせていく容赦ない視線が恥じらいの殻を打ち砕き、新しい扉を次々に暴いていく。
理性が時計に目を向けさせるのに、知ってしまった愛に溺れる好奇心が、豹変した男を受け入れてしまう。
「愛してる。何度でも言うよ。愛してる、翠」
「私も……」
愛があふれ声にならない。
二人の吐息が絡み合い、世界が虹色に輝き始める。
理由なんてない。
こうなることを望んでいた。
熱い吐息の輪唱は終わらない。
窓の外では、月曜日の都会が動き出していた。



