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背中に回された指でワンピースのファスナーが下ろされ、ふわりと床に輪ができた。
下着姿の翠を軽々抱きかかえると蒼也はベッドへと運び、勢いに任せて組み伏せる。
「翠……」
熱い吐息が胸を焦がす。
柔らかく、燃えるようなキスが心を解き放つ。
何度もキスを重ね、官能の渦に引き込まれているうちにいつの間にか下着が剥ぎ取られ、露わになった胸にまたキスの嵐が降り注ぐ。
「ずるいよ、翠」
――えっ。
「こんなかわいい姿を今まで内緒にしてたなんて」
とっさに隠そうとする腕をがっちりとつかまれ、鋭い爪でシーツに縫い付けられる。
「だめだ。もっとじっくり、たっぷり見せて」
遠慮などない男の欲望に蹂躙されながら翠はその愛撫に溺れていた。
敏感な部分をすべて知っていたかのように、蒼也は翠の体で愛のメロディを奏でていく。
自分でも知らなかった愛があふれていく。
――もう迷わない。
翠は蒼也の全てを受け入れる準備ができていた。
だが、その時だった。
蒼也の手が止まる。
「しまった」
「どうしたんですか?」
「いや、その……」と、蒼也が額に手を当てる。「男のたしなみを用意してない」
「いいですよ」と、意味を察した翠は背中に手を回し、力を込める。「夫婦なんですから」
「だけど……」
蒼也を抱き寄せ耳元に囁く。
「蒼也さん。私がどんなに痛がっても、どれだけ泣いても絶対に止めないでください」
「無理することはないよ」
低く抑えた声の優しさが切ない。
ギュッと白くなるほど手を握る。
「お願い。何があってもやめないで!」
「あぁ」と、エメラルドの瞳が熱を帯びる。「愛してるよ。翠の全てが欲しい。おびえた体も、熱い心も」
「私も、蒼也さんの全部を感じたい」
カーテンの隙間から差し込む月明かりに浮かぶ妻を強く抱きしめた男の瞳に炎が宿り、微笑みとともに交わされたキスが、恐怖を焼き尽くす。
「待った甲斐があったよ、翠」
二人のリズムがシンクロし、蒼也の指揮で愛のコンチェルトが奏でられる。
偽装の仮面は燃え尽き、ただ愛の炎だけが燃え上がる。
どれほど愛し合っただろう。
脱力した男の体がベッドに沈む。
「やっと手に入れたよ、俺の宝物」
男の吐息に、翠は温かな涙で頬を濡らしていた。



