ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

「ほら、水の音がするでしょ」

 言われて耳を澄ますと確かにドドドと力強い音が聞こえてきた。

 石畳の階段をスキップしながら上がっていくと、木立の奥に岩の壁が現れた。

 家の屋根を見上げるくらいの高さがある崖の端から端まで押し出されるように水があふれ出している。

 都会の真ん中で滝というと細く水が落ちてくる程度なのかなと思っていた私は、息をのむような水量と話し声が聞こえなくなるほどの音の迫力に圧倒されて、しばらくポカンと口を開けて立ちすくんでいた。

「どう、すごいだろ」と、私に顔を寄せて蒼也くんが声を張り上げた。

 私も背伸びをして耳に向かって叫んだ。

「うん、ホントだったね」

「だろ」と、蒼也くんはうれしそうだ。

 流れ落ちた水は一つにまとまり、かなりの勢いで木々の間を縫うように池に向かって下っていく。

「この先にね、洞窟があるんだよ」

「わあ、見たい」

 私はもう疑ったりしていなかった。

 実際、いったん石段を降りて葉の茂った木々に覆われた緩い坂を登っていくと、地面に溝が掘られたようなところがあって、その奥が洞窟になっていた。

 子どもでも狭そうだし、木陰で暗くて中はよく見えなかった。

 後から知ったけど、どうやらそれは戦争中の防空壕だったらしい。

 蒼也くんがしゃがんで奥の方を指さす。

「ほら、柵で塞がってるから、中には入れないんだよ」

「ふうん、そうなんだ」と、私もスカートをおさえながらしゃがんだ。

 たとえ入れると言われても暗くて怖そうだったから、正直ホッとしていた。

「やっぱり怖い?」と、蒼也くんが私の顔をのぞき込んでいる。

「だって、お昼なのに暗いんだもん」と、あのときの私はまた口をとがらせていたと思う。

「おじいさまにはね、あんまりここには来てはいけないって言われてるんだ」

「危ないから?」

「幽霊が出るんだって」

「ひゃっ」

 幽霊という言葉に、思わず私は尻餅をついてしまった。

「大丈夫?」

 蒼也くんはすぐに起こしてくれたけど、チクチクする松の枯れ葉なんかでスカートが汚れてしまった。

「おどかしちゃってごめんね」

「ううん、大丈夫」と、私は大げさにお尻を叩いて汚れを落とした。「だけど、幽霊出ないよね」

「昼間だから大丈夫じゃないかな」