ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

「あ、あの……」と、ためらいながらも翠は思いきってたずねた。「する時って、男の人の……ああいうのが、入ってくるんですよね」

 子どもにスクールバスの乗り方をレクチャーしているみたいに、なんてことないという表情でレイナが肩をすくめる。

「そうね。だから、相性って大事なのよ。快感の場合はハッピーだけど、ただの苦痛って時もあるでしょ。そんなときは感じてる演技して、一回だけでサヨナラね。クズだけど体の相性だけは合う男とか、最悪なんだけど別れられなくなっちゃうのも困るけど」

「はあ……」

「そういう質問するってことは、蒼也のを見せられたってこと?」

「見てはいないですけど、一緒に眠っているときに……」

「触っちゃったわけね」と、食い気味に相槌を打つ。「それでびっくりしたと。かわいらしい子どものとは全然違うから」

 なんでもお見通しらしい。

「でも、それって、蒼也が無意識にあなたのことを求めてるってことでしょ」

 ――あ……。

「男が本能で女を求める。愛の形としては一番プリミティブだけど、一番大事なんじゃないの。愛されてる証拠ね」

 そうだ。

 だけど、私はそれに応えられていないんだ。

 なんでだろう。

 体が拒んでいると思っていたけど、さっきのすれ違いを思えば心の隙間のせいなのかとも思う。

「それにしてもよくあの蒼也が耐えてるわね。あなたドS?」

「違いますよ」

「意味は分かるのね。ウブなくせに」

 すみませんと、思わず翠は頭を下げた。

「そういえば、こういうの、『おあずけ』って言うのよね。日本語ってぴったりのいいワードを作り出すのがうまいのよね」

 いったん言葉を区切ったレイナが耳打ちする。

「カタブツをとろけさせるのって、想像するだけでわくわくしない?」

 ――はあ。

「あなたの魅力であいつを虜にしちゃえばいいのよ」

 と、簡易ステージにスポットライトが当たり、女性歌手が映像を駆使した演奏を始めて会場が一気に湧き上がる。

 配信ナンバーワン歌手のマキミヤだ。

「じゃあね、グッドラック」

 なんか疲れちゃったな。

 リズムに乗って腰を揺すりながらステージに向かうレイナの後ろ姿を見送ると、翠はすぼめた口にブドウの粒を放り込んだ。