ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

「MBAって、毎週五百ページ近くの資料を読んでレポートを提出しなくちゃならないのよ。もちろん英語よ。私たちネイティブですら脱落するのに、蒼也は必死に食らいついてたわよ。あのクリスマスの晩も、教授に再提出を命じられてね。私たちの方が花火みたいに儚く消え去りそうだったって最悪の思い出なの。私たちはそういう地獄を生き残って今があるの」

 アメリカ風のジョークなんだろうけど、笑いのツボがまるで分からない。

「蒼也がベンチャービジネスを立ち上げるときに出資者のオコンネル氏を紹介したのは私。私が好きなのは、お金をもたらしてくれる男。そういう意味では、蒼也のことは大好きよ。動物園のコアラよりは興味あるかも」

 相手のペースに押されるばかりで、言葉を差し挟む余裕すらない。

 通りかかった係員に皿を預け、シャンパンを受け取ったレイナが翠に頬を寄せてきた。

「で、どうなの、蒼也との相性は?」

「どうって言われても」と、困惑しつつ翠は質問で返した。「どう見えますか?」

 噴き出しながらレイナが翠を肘でつつく。

「見えるって、私、ピーピングなんかしないわよ」

「ピーピング?」

「ええと……穴からこっそり見ること?」

「え、のぞき!?」

 レイナが唇に人差し指を立てる。

「声が大きいわよ」

「すみません。でも、それなら……」

「相性って言ったら体の相性に決まってるでしょ。ティーンエイジャーじゃないんだから。ま、私はハイスクールで経験済みだったけど」

「体の……相性」

 一気に顔が燃え上がる。

 汗が噴き出す翠をのぞき込みながらレイナが目を細める。

「もしかして、あなたたち、まだなの?」

「えっと、それがその……いろいろありまして」

「嘘でしょ。あいつ修道院にでも入ってたの?」と、レイナが笑いをこらえながらシャンパングラスを傾ける。「そういうプレイをしてるとか?」

「え、プレイ?」

「ああ、ごめんなさい。ジョークの加減が難しいわね。私は楽しいけど」

 ウィンクをしながら顔を突き出してくるレイナの視線から逃れるように翠はシャンパンを一息に飲み干した。

 そんな様子を笑みを浮かべながら眺めると、レイナは容赦なく核心を突いてきた。

「あなたバージン?」

 うなずく前に耳が熱くなる。

「正直ねぇ」と、レイナが優しく肩をたたく。「ええと、日本語でなんて言うんだっけ……『こじらせ』?」